tsurfの機械設計研究室

サーボモーターやエアシリンダの選定計算なども扱っている技術ブログです

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機械設計における電動化の恩恵はどこまで本当か?

本ブログの御訪問ありがとうございます。
機械設計歴20年以上T.surfと言います。

今回は以下に関する記事です。

 

機械設計における電動化の恩恵は
どこまで本当か?

  

⇩本記事は以下の方にオススメです⇩

機械設計初心者

これからは電動化だよ
電動化にすれば
◯◯%省エネって聞いたよ

 

⇩本記事を読むと以下が わかります⇩

管理人T.Surf

電動化によって
○○%省エネですか・・
その試算って
どのような前提
なのでしょうか?

 

 

①導入:本当に“電動化=省エネ”なのか?

最近、エアレスや電動化という言葉を耳にすることが増えました。

 

電動化によって
○○%省エネです

というキャッチコピーもよく目にします。

けれど――その「省エネ」、
一体誰が・どんな計算根拠で出しているのでしょうか?

設計現場に身を置く管理人として、
どうしても違和感を覚えた点があります。

  • エアブローの存在は織り込まれているのか?
  • 電動化による構造増加・質量増加が生む“非省エネ”は?
  • 初期コスト・導入コストの跳ね上がりは?
  • 電動化はコンプレッサーレスにしないと意味がない
  • コンプレッサーレスを前提とするなら、実現性は?

その疑問こそが、この記事の出発点です。

 

 

②エアブローの存在は消せない

 

電動化シリンダーで
○○%省エネです

確かに、空圧は一度コンプレッサーで空気を
圧縮する必要があります。

従って、電気で直接動く電動シリンダーは
“効率的”という印象を与えやすい。

だからこそ

『◯◯%省エネ』

というキャッチコピーとその試算も、
なんとなく信じてしまいそうになります。

ですが、
ここで一度立ち止まって考えてみてほしいのです。

 

💡 本当に省エネになっているのか?
見落とされがちな事実として以下を考えます。

  • 実際にはエアシリンダーはコンプレッサー1台で
    多数のエアシリンダーを駆動できます
  • 小型〜中型・短ストロークのエアシリンダーでは、
    実は消費エア量はごくわずか

つまり、エアシリンダーによってはほとんどエアの負担に
なっていないどころか・・・

何より—
エア関連で最大のエネルギー消費源は、
エアブローなのです。

 

つまり、電動化で◯◯%省エネの試算は、
コンプレッサーレス=エアブローを含まない理想環境
を前提としている可能性が高いのです。

ところが現実にはどうでしょうか。

 

エアブローは、
工場や設備の工程のいたるところで重要な役割を担っています

  • 洗浄や乾燥の吹き飛ばし
  • 装置内のエアパージ
  • ゴミ・液体・粉塵の除去
  • ワークの押し出しや排出補助

これらは簡単に“エアレス化”できるものではありません。

電動シリンダーによる省エネ効果を語るなら、
「ブローが残る以上、コンプレッサーも残る」という矛盾
も一緒に語るべきなのです。

 

 

③2軸搬送機構に潜む『省エネ』の矛盾

水平+昇降の2軸機構は、装置設計の中でよく見かけます。

特に昇降側は短ストロークで済むことが多く、
そのため軽量・コンパクトな
エアシリンダーが選ばれやすい構成です。

 

つまり、以下のような機構ですね

実際、エアシリンダーの構造は非常にシンプル。

  • 加圧されたエアがそのまま直動力として作用する
  • ロッドと中空のボディだけで、極めて軽量かつコンパクト

省スペース性や質量的な有利さは、
使っている人ほど体感的に分かります。

ところが、最近では

 

省エネのために
電動シリンダーにしよう

という流れが進みつつあります。
しかし、ここで立ち止まって再考してみたいのです。

 

🔍 電動化によって何が増えるのか?

電動シリンダーには当然、次のような構成部品が搭載されます:

  • 回転運動を生み出すモーター
  • 回転→直動を変換するボールねじ
  • そのねじを保持するベアリング構造
  • ケース、エンコーダ、ケーブル保持部など…

つまり、機構全体が「重く」「長く」「構造的に複雑」になります。

 

⚖️ 結果、何が起きるか?

この“重たい昇降軸”を、下の水平軸が支えることになるわけです。
するとどうなるか。

  • 水平移動中の慣性負荷が増える
  • 加減速時のモーター消費電力が増大する
  • 構造の振動や応答性にも悪影響を与える

結果として
「省エネどころか全体として非効率」になるケースが起きる

これでも、“電動化だから省エネ”と言えるのでしょうか?

 

電動化によって
○○%省エネです

というのは、
このようなケースは考慮されているのでしょうか?

 

 

④ロボット先端に“省エネ装置”は載せられない

ロボット先端用
小型真空ポンプ

最近、「ロボット先端に搭載できる小型真空ポンプ」が
流行しはじめています。

省エネと配線レスを両立させた“エジェクターの上位互換”的
な扱いで登場し、次のような売り文句が並んでいます:

  • エアレスで省エネ
  • 電気制御で
    真空圧上昇→ポンプ停止、真空圧低下→ポンプ再稼働
    の間欠運用が可能
  • 圧力センサ・電磁弁の内蔵による
    スマート運用可能

ですが、管理人は強い違和感を覚えました。

 

小型と言っても
大きくて重い

6軸ロボットやスカラ型のアーム先端における設計で、
最も重要なのは「軽さ」と「小ささ」です。

理由は明確で、

  • ロボット先端の回転軸に使われるモーターは
    非常に小型かつ低慣性設計
  • 搭載物の質量増加=許容慣性モーメント超過
    =制御破綻につながる
  • 一瞬の応答遅れや制動のバラつきは
    精度や寿命に直結

つまり、小型ポンプといっても
モータとベアリングを含んだ電動真空ポンプ”は
十分に大きすぎて重すぎます。

そんなものを真空チャックジグと
一体でアーム先端に積もうものなら、
慣性モーメントの増大により、仕様範囲外
となってしまいます。

 

その点エジェクターはたしかにエア消費は多いかも
しれません。

ですが、エジェクターは超小型、超軽量で
ロボット先端に取りつけても支障がありません。

 

回転系は?

もうひとつの問題は、
ロボット先端が“複雑な回転動作”を含む
という構造的な前提
です。

  • エア式エジェクターなら、
    供給源は中空軸+ロータリージョイントで供給可能
  • 電動式真空ポンプでは、
    配線の引き回し or スリップリングが必要
    =設計自由度と信頼性が激減

と設置面においても
エジェクターのほうが圧倒的に有利です。

いくら小型電動真空ポンプがカタログに―

 

6軸ロボットや
スカラーの先端に
搭載できます

と書かれていても、
実際の設計上は“無理”か、できたとしても“やりたくない”

それが本音でしょう。

 

そんなことするくらいなら

ロボットとは別の場所に真空ポンプなりエジェクターなり
設置して真空をロボット先端に送り込んだほうがよほど
現実的です。

 

省エネ運用は
非現実的

間欠運転ができて省エネだ――という制御も、
現場の感覚では幻想に近いものがあります。

真空チャックの現実として:

  • ワークの面粗さや反り
  • パッド面の摩耗・微細な異物付着
  • 材質のたわみや微細な浮き

といった「真空圧が出た=密着している」
とは言い切れない要素が山のようにあります。

実際、真空OFFで一瞬にしてワークが落下するケースはザラ。
だから現場では基本的に“常時吸着”こそが安全策なんですよね。

さらに:

  • 搬送時間が0.5秒以下のサイクルでは、
    停止→起動の制御を入れる意味がない
  • エネルギーをセーブするよりも
    落とさないことの方が優先される

結論として

  • 重くて、大きい
  • 応答性・信頼性に劣る
  • 制御も理想論にすぎない

なのに「省エネ」「スマート」という名のもとに
現場へ提案されるのは、

本来の合理性を無視したマーケティング優先の技術提案
と言わざるを得ません。

設計者としては、

 

それ、
ほんとに必要なんですか?

と冷静に問い直す必要があるのです。

 

 

⑤電動化についての総評

 

電動化によって
○○%省エネです

そんな言葉を目にしたとき、
設計者としてまず考えるべきは

 

その試算、
どんな前提で出されたのか?

ということです。

検証すべきポイントは山ほどあります:

  • エアブローという不可避な存在は含まれているか?
  • 電動化による構造重量の増加は考慮されているか?
  • 機構全体の慣性が変わったときのトータル電力は?
  • ロボット先端の回転制約や動作信頼性は加味されたか?
  • 真空チャックの“実際の吸着信頼性”は検証されたか?

こうした当たり前の設計目線が無視されたまま
“省エネ”という言葉だけが独り歩きしているとすれば、
それは技術の退化とさえ言えるかもしれません。

 

 

⑥“いつものカン”が一番強い

最終的に頼るべきは、
過去の経験と論理に裏打ちされた“設計者のカン
だと、管理人は思います。

  • 2点間搬送で、高速性も不要
    → エアシリンダで十分
  • 多点位置決めで細かく繰り返す
    → 電動軸で対応
  • 海外現地での遠隔調整が必要
    → はじめて電動化が活きる

それ以外は、
無理に“省エネだから”で
新しいものを積む必要なんて、どこにもない
んです。

むしろ、お客様の
「調整費で済む」
「触れる技術にしておきたい」
というニーズに応えられることのほうが、よほど価値がある。

 

 

⑦ 技術とは“良さを残して、良くする”ものである

管理人は技術の進歩とは2種類あると思っています。
それは革新と改善です。

革新と改善は似て非なるものです。
革新と改善の違いはー

  • 改善は現状の長所をそのままにさらに良くしていき
    短所を改善していく
  • 革新とは現状の問題を理由に現状の長所ですら
    丸ごと否定して まったく新しいものを提案する

つまり革新とは 

 

あれがダメならこれ 

これがダメならアレ

というようにせっかく改善したものを都度初期化する
実は進化ではなく退化なのです。

例えばエジェクターの例で言えば

 

エジェクターは
エアを消費するから電動化

これが(安易な)革新です。

 

でも今するべきはそこじゃないでしょ?

 

改善とは
エジェクターの(エア使用に起因する)小型軽量
という長所に着眼し、どうすればエア消費量を
少なくできるか?

という
長所を伸ばし短所を補うこと
を言います。

 

革新よりも改善。
主張よりも整合。
売り文句よりも、実際に動くかどうか。

そういう設計哲学が、
これからもきちんと語られる場所があってほしいと願います。

 

これが設計者としての「正論」かどうかはわからない。
ただ、少なくとも「現場で動かす側が抱いているリアリズム」
であることは確かだ。

「エアがダメだと言う前に、
エアをもう一歩だけ進化させてからにしてくれ」

――それが、今この場所から技術に伝えたい気持ちだ。

 

本記事は以上です。
最後までお読みいただきありがとうございます。

 

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