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機械設計歴20年以上のT.surfと言います。
今回は以下に関する記事です
【中小製造業を守りたい】
設計工数原理主義は会社の技術力を
低下させる
設計工数について
一度冷静に考える必要があります。
設計工数原理主義は
会社の技術力を低下させます。
- ①結論
- ②間接工数費と直接部品費
- ③間接工数費について
- ④設計工数原理主義は会社の技術力を低下させる
- ⑤設計工数原理主義が会社の技術力を低下させた実例
- ⑥現実のオペレーションからわかる設計工数至上主義の間違い
- ⑦まとめ
①結論
間違った設計工数観
:設計工数原理主義
設計工数原理主義とは 以下のように
設計工数○○時間で見積もったから
設計時間を○○時間で抑えろ
という間違った工数観を指します。
この考えを放置すると
設計者が勉強しながら設計=無駄な工数だから許されない
となり、会社の技術力が低下していきます。
ここで解説する間違いとは
ここで解説するポイントは、
見積時の工数と現実の工数のアンマッチではありません。
見積時の工数の設定は
各会社毎の考えに沿えばいいのです。
多めに請求できそうであれば
そうすればいいだろうし、
少な目に見積もる必要性のあることもあるででしょう。
見積の工数が少ないだとか
そこを批判するつもりはありません。
私の私的する間違いは、工数見積りの後の話であり、
あくまで以下のような
設計工数○○時間で見積もったから
設計時間を○○時間で抑えろ
という工数原理主義です。
後述しますが、私的には
見積もりの工数なんて正確な算出は不可能なので
以下のように思っています。
- 見積の工数は少な目であって当然
(というかどうでもいい)
- 見積の工数が少な目なのが問題ではなく
見積工数内に設計時間を収めろという圧力が問題
そして、設計工数原理主義は
現実と整合していません。
上記の理由を解説していきます。
②間接工数費と直接部品費
工数原理主義の原因
工数原理主義が横行してしまう原因は
間接工数費と直接部品費を混同してしまっていることに
起因します。
設計工数費は間接工数費ですよね?
いわゆる主婦の家事を時間単価に換算すると~
と同様なものです。
まず 間接工数費と直接部品費の違いを
明確にしましょう。
間接工数費
間接工数費とは、以下の特性があります。
- 外にでていくお金ではない
- 実際の社員は月給制の固定費だが、便宜上自給換算している
- 変動性があり変動幅が大きいもの
だということです。
上記については 詳しく後述します。
直接部品費
例えばLMガイド1ヶの値段は決まっています。
確かにその時の購入数によって多少の値引きはあるでしょう。
しかし、基本的には固定であり
確実に外に出ていくお金です。
従って以下の性質があります。
- 確実に外に出ていくお金
- 単価が決まっている
- 原則として変動のない絶対固定費
③間接工数費について
前置き
前述のとおり 以下のポイントがあります。
- 外に出ていくお金ではない
- 実際の社員は月給制の固定費だが、便宜上時給換算している
- 変動性があり変動幅が大きいもの
間接工数費は、人件費請求の便宜上時給換算をしています。
しかし、実際には正社員は月給制です。
残業代を考慮しなければ固定費です。
それはそうでしょう。
お客様に作業工数を請求する際に時給で考えるのは
仕方がないことです。
しかし
設計工数○○時間で見積もったから
設計時間を○○時間で抑えろ
という考えが間違えであることを思考実験で
見ていきましょう。
思考による検証
例えば
とある会社が以下の条件で、ある作業を請け負ったとします。
時間単価 | : | 6000円 |
見積り設計工数 | : | 100時間 |
作業担当者の月給 | : | 総支給35万円 |
しかし、
実際に掛かった設計時間が160時間であったとします。
60時間オーバーです。
Q | : | 時間単価6000x60時間=360000円の損失が出るでしょうか? |
A | : | 答えは 全て定時間内であった場合損失はないです。 |
なぜなら
実際には正社員は月給制だからです。
そもそも、その仕事がなかったとしても
そもそも、仕事自体がなかったとしても
月給制である以上、社員には月給という固定費を
払わなくてはいけません。
なお 補足として
月給の総支給35万円 年間ボーナス60万の正社員は
一日8時間 年間休日を124日で計算すると
時給2500円程度となります。
しかも 今回の例では160時間ですので
- 1日 8時間を定時間として
- 1か月24日稼働で定時間で終わらせた場合
今回の作業費を
作業者の月収35000に ボーナス60万の1ヶ月分で計算をすると・・・
月収総支給35万円+ボーナス60万円÷12か月=40万
この時点で
(時間単価6000円x100時間)- 作業者の作業費400000
=200000円の黒字となっています。
しかも 上記の計算は
- 残業なし
- 作業担当者の月給総支給35万円
という前提で考えているのですが
実際には、以下のようなランダムな変動幅があります。
- その時期による忙しさによる残業の有無と残業量
- 月給の異なる社員の場合は?
- 複数作業の場合は?
- 同じ作業でも 社員の所持スキルによっては差が生じるが?
など、かなり複雑な要素を考慮しなくてはいけません。
これで どうして
- 時間単価6000円と算出できるのか?
- 見積工数のオーバーで赤字と判断できるのか?
わからないくらいです。
この強い変動幅の中で
工数の単価を設定するということ自体
本来は意味がないんですよ。
ただし 先述のとおり、
お客様に請求する人件費と考えれば問題ありませんし、
だからこそ
お客様に人件費を請求するための便宜上の時給数値
と見なすことができます。
④設計工数原理主義は会社の技術力を低下させる
設計工数○○時間で見積もったから
設計時間を○○時間で抑えろ
このような考えは
中小の製造業にとって、技術力の低下を招きます。
これを理解するには
以下の4つのポイントが重要です。
- 実際の設計前の正確な工数割り出しは不可能
- 工数費は時給換算だが、実際は月給制による固定費
- 設計工数は条件により、大きな変動幅がある
- 実際の設計は勉強時間も含まれるので投資
つまり、
ただでさえ 見積時に正確な工数算出なんて
不可能なので、見積工数は少な目となります。
にもかかわらず
見積工数内に作業時間を抑えようとすると
調べたり、勉強したりする時間も無駄となり、
削減しなくてはいけません。
この調べたり勉強しながら設計=社員のスキルアップです。
社員のスキルアップは=会社の技術的財産です。
設計工数原理主義は会社の技術的財産構築を否定するものです。
つまり・・・・
設計工数○○時間で見積もったから
設計時間を○○時間で抑えろ
という考えは、
会社の技術力の低下を招くためだけ
の『百害あって一利なし』のものなんですよ。
これを理解するためにも
上述したように、間接工数費の性質を理解して
いなくてはいけません。
⑤設計工数原理主義が会社の技術力を低下させた実例
では、
設計工数○○時間で見積もったから
設計時間を○○時間で抑えろ
という考えを実践した結果
会社の技術力が低下してしまった実例をあげましょう。
かつて 私はとある半導体洗浄装置の会社に在籍していて
開発部にいました。
私自身は開発部で自分で設計をしていました。
しかし、受注装置設計部隊は
設計工数原理主義を地で行く考えです。
その結果どうなったか?
答えは、
- 昔からいる外注さんがメインで設計
- 正社員はバラシや設計補助
という本末転倒な結果となってしまいました。
つまり、
昔から設計をやっている外注さんのほうが
わかっているから
- 勉強などする時間も少ない
- ミスも少ない
ことから設計工数が少なくて済む
ということなのです。
正社員は勉強しながらでも設計スキルを身に着ける
という当たり前のことができないのです。
これを放置するとどうなるか?
- 正社員の技術力低下はもちろん
- 外注さんの引退とともに、設計ノウハウが失われます。
なぜなら 彼ら外注さんには、設計ノウハウを
社員に展開する義理はあっても義務はないからです。
つまり、以下の要因から
- 社員の技術力への投資
- 間接工数費の性質
工数オーバーが赤字だと単純には言えないのです。
このような 結果に陥らないためにも
正しい工数観が必要です。
⑥現実のオペレーションからわかる設計工数至上主義の間違い
今まで 長々と設計工数原理主義の間違いと弊害
について解説してきました。
しかし、
『設計工数原理主義による設計工数縛りが
明らかに間違いだ』
と言い切れる現実のオペレーションがあります。
それは、税引き前利益の計算です。
先ほどの例で、ある期の作業時間が
- 全て定時間内
- 休日出勤なし
と仮定すると、
その作業者の人件費は年収の480万となります。
通常は、この実際に支給した費用を
人件費として税引き前利益の計算上、
計上していると思います。
まさか、設計工数で計上はしていないですよね?
設計工数で税引き前利益の計算をしてしまうと、
この作業者の人件費は、なんと
時間単価6000×定時間8時間x年間出勤日数241日
=1157万となってしまいます。
これを社員一人一人の人件費として計上していたら、
税引き前利益が大幅に少なくなるので法人税の脱税となります。
⑦まとめ
- 工数オーバー=赤字だと簡単な判断はできない
- なぜなら工数は時給換算だが、実際の社員は
月給制の固定費だから - そもそも、見積時の工数は正確な算出は不可能
- なので見積の工数は 少な目になることは当然
- 見積の工数が少な目であることが問題ではなく
見積工数内に設計時間をおさめろ
という圧力があることが問題 - なぜなら 設計技術の低下につながる
(勉強しながらの設計業務の否定) - 正しい工数観が必要
- というか、現実の純利益計算にも設計工数は
使用していない。
本記事は以上です。
最後までお読みいただきありがとうございます。