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機械設計歴20年以上のT.surfと言います。
今回は以下に関する記事です
【中小製造業を守りたい】
設計工数原理主義は会社の技術力を
低下させる
設計工数について
一度冷静に考える必要があります。
設計工数原理主義は
会社の技術力を低下させます。
①結論
間違った設計工数観:設計工数原理主義
設計工数原理主義とは 以下のように
設計工数○○時間で見積もったから
設計時間を○○時間で抑えろ
という間違った工数観を指します。
この考えを放置すると
設計者が勉強しながら設計=無駄な工数だから許されない
となり、会社の技術力が低下していきます。
ここで解説する間違いとは
ここで解説するポイントは、
見積時の工数と現実の工数のアンマッチではありません。
見積時の工数の設定は
各会社毎の考えに沿えばいいのです。
多めに請求できそうであれば
そうすればいいだろうし、
少な目に見積もる必要性のあることもあるででしょう。
見積の工数が少ないだとか
そこを批判するつもりはありません。
私の私的する間違いは、工数見積りの後の話であり、
あくまで以下のような
設計工数○○時間で見積もったから
設計時間を○○時間で抑えろ
という工数原理主義です。
後述しますが、私的には
見積もりの工数なんて正確な算出は不可能なので
以下のように思っています。
- 見積の工数は少な目であって当然
- 見積の工数が少な目なのが問題ではなく
見積工数内に設計時間を収めろという圧力が問題
上記の理由を解説していきます。
②間接工数費と直接部品費
-工数原理主義の原因-
工数原理主義が横行してしまう原因は
間接工数費と直接部品費を混同してしまっていることに
起因します。
設計工数費は間接工数費ですよね?
いわゆる主婦の家事を時間単価に換算すると~
と同様なものです。
まず 間接工数費と直接部品費の違いを
明確にしましょう。
-間接工数費-
間接工数費とは、以下の特性があります。
- 外にでていくお金ではない
- 実際の社員は月給制の固定費だが、便宜上自給換算している
- 変動性があり変動幅が大きいもの
だということです。
上記については 詳しく後述します。
-直接部品費-
例えばLMガイド1ヶの値段は決まっています。
確かにその時の購入数によって多少の値引きはあるでしょう。
しかし、基本的には固定であり
確実に外に出ていくお金です。
従って以下の性質があります。
- 確実に外に出ていくお金
- 単価が決まっている
- 原則として変動のない絶対固定費
③間接工数費の解説
-前置き-
前述のとおり 以下のポイントがあります。
- 外に出ていくお金ではない
- 実際の社員は月給制の固定費だが、便宜上時給換算している
- 変動性があり変動幅が大きいもの
間接工数費は、人件費請求の便宜上時給換算をしています。
しかし、実際には正社員は月給制であり、
残業代を考慮しなければ固定費です。
それはそうでしょう。
お客様に作業工数を請求する際に時給でで考えるのは
仕方がないことです。
しかし
設計工数○○時間で見積もったから
設計時間を○○時間で抑えろ
という考えが間違えであることを思考実験で
見ていきましょう。
-思考による検証-
例えば
とある会社が以下の条件で、ある作業を請け負ったとします。
時間単価 | : | 5000円 |
見積り設計工数 | : | 100時間 |
作業担当者の月給 | : | 総支給35万円 |
しかし、
実際に掛かった設計時間が160時間であったとします。
60時間オーバーです。
Q | : | 時間単価5000x60時間=300000円の損失が出るでしょうか? |
A | : | 答えは 全て定時間内であった場合損失はないです。 |
なぜなら
実際には正社員は月給制だからです。
そもそも、その仕事がなかったとしても月給制である以上
社員には月給という固定費を払わなくてはいけません。
つまりは
その作業のせいで時間あたり5000円の損失が
出ているわけではないのです。
なお 補足として
月給の総支給35万円の正社員は
一日8時間 20日稼働で計算すると
時給2200円程度となります。
しかも 今回の例では160時間ですので
- 1日 8時間を定時間として
- 1か月20日稼働で定時間で終わらせた場合
作業費のコストを今回の作業者の月給の総支給額35万と考えれば
この時点で
(時間単価5000円x100時間)- 月給350000円
=150000円の黒字となっています。
しかも 上記の計算は
- 残業なし
- 作業担当者の月給総支給35万円
という前提で考えているのですが
実際には、以下のようなランダムな変動幅があります。
- その時期による忙しさによる残業の有無と残業量
- 月給の異なる社員の場合は?
- 複数作業の場合は?
- 同じ作業でも 社員の所持スキルによっては差が生じるが?
など
かなり複雑な要素を考慮しなくてはいけません。
これで どうして
- 時間単価5000円と算出できるのか?
- 見積工数のオーバーで赤字と判断できるのか?
わからないくらいです。
この強い変動幅の中で
工数の単価を設定するということ自体
本来は意味がないんですよ。
ただし 先述のとおり、
お客様に請求する人件費と考えれば問題ありませんし、
だからこそ
お客様に人件費を請求するための便宜上の時給数値
と見なすことができます。
④設計工数原理主義は会社の技術力を低下させる
-前置き-
設計工数○○時間で見積もったから
設計時間を○○時間で抑えろ
このような考えは
中小の製造業にとって、技術力の低下を招きます。
これを理解するには
以下の3つのポイントが重要です。
- 実際の設計前の正確な工数割り出しは不可能
言うまでもなく 当たり前でしょう。
工数は担当する設計者の所持スキルや、その時の
状況により、大幅な変動があります。
もし 見積時に正確な工数割り出しなんて
できたら予言者でしょうか?
- 工数費は時給換算だが、実際は月給制による固定費
今まで解説してきましたが
工数費は時給換算ですが 実際は月給制による固定費です。
つまり 例えば時間単価5000円の場合
『設定工数1時間オーバーあたり5000円の損害が出ている』
とは 一概には言えません。 - 実際の設計は勉強時間も含まれる
これも言うまでもなく、
調べものをしたり 知見のない分野は勉強
という工数を大幅に上げる要素がありますが
それはスキルアップにつながる投資です。
つまり、
ただでさえ 見積時に正確な工数算出なんて
不可能なので、見積工数は少な目となります。
にもかかわらず
見積工数内に作業時間を抑えようとすると
調べたり、勉強したりする時間も無駄となり、
削減しなくてはいけません。
つまり、調べたり勉強しながら設計をする
という至極当たり前のことが不可能となります。
本来は この調べたり勉強しながらというのが
社員のスキルアップにつながり会社の財産となるにも関わらずです。
-結論として-
つまり
設計工数○○時間で見積もったから
設計時間を○○時間で抑えろ
という考えは、
会社の技術力の低下を招くためだけ
の『百害あって一利なし』のものなんですよ。
これを理解するためにも
上述したように、間接工数費の性質を理解して
いなくてはいけません。
-実例-
では、
設計工数○○時間で見積もったから
設計時間を○○時間で抑えろ
という考えを実践した会社の実例をあげましょう。
かつて 私はとある会社に在籍していて
開発部にいました。
私自身は開発部で自分で設計をしていました。
しかし、受注装置設計部隊は
設計工数原理主義を地で行く考えです。
その結果どうなったか?
答えは、
- 昔からいる外注さんがメインで設計
- 正社員はバラシや設計補助
という本末転倒な結果となってしまいました。
つまり、
昔から設計をやっている外注さんのほうが
わかっているから
- 勉強などする時間も少ない
- ミスも少ない
ことから設計工数が少なくて済む
ということなのです。
正社員は勉強しながらでも設計スキルを身に着ける
という当たり前のことができないのです。
これを放置するとどうなるか?
- 正社員の技術力低下はもちろん
- 外注さんの引退とともに、設計ノウハウが失われます。
なぜなら 彼ら外注さんには、設計ノウハウを
社員に展開する義理はあっても義務はないからです。
つまり、以下の要因から
- 社員の技術力への投資
- 間接工数費の性質
工数オーバーが赤字だと単純には言えないのです。
このような 結果に陥らないためにも
正しい工数観が必要です。
⑤まとめ
- 工数オーバー=赤字だと簡単な判断はできない
- なぜなら工数は時給換算だが、実際の社員は
月給制の固定費だから - そもそも、見積時の工数は正確な算出は不可能
- なので見積の工数は 少な目になることは当然
- 見積の工数が少な目であることが問題ではなく
見積工数内に設計時間をおさめろ
という圧力があることが問題 - なぜなら 設計技術の低下につながる
(勉強しながらの設計業務の否定) - 正しい工数観が必要
本記事は以上です。
最後までお読みいただきありがとうございます。