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機械設計歴20年以上のtsurfと言います。
今回は以下に関する記事です
モーター減速機の基本原理
なぜ減速するとトルクアップするのか?
本記事は機械設計者の方にオススメです

減速機をつけると
なんでトルクが上がるんだ?
⇩本記事を読むと以下が わかります⇩
減速の原理を図で
解説します。
①歯車による減速機構のモデル
解説を簡単にするために
減速比を1/2にする機構で解説します。
歯車A | モーターの駆動軸側 | 作用半径r<m> |
---|---|---|
歯車B | 従動側軸 | 作用半径2r<m> |
モーターの トルク |
上記のモデルで
- トルクアップの原理
- 減速の理由
を解説します。
②トルクアップの原理
STEP1
駆動側歯車Aが点Pに及ぼす力
以下の図の赤枠の拡大図における
点Pに作用する力を計算します。

歯車Aはモーターによる回転により、
出力軸となっています。
従って 駆動側歯車Aは点Pを押すことにより
従動側歯車Bを回転させることになります。
では、駆動側歯車Aは
従動側歯車Bを回すために点Pに、どの程度
荷重をかけているのでしょうか?
点Pに掛かるモーター駆動歯車Aからの力F(N)
=モータートルクT(N・m) ÷ 歯車A作用半径r(m)
=T/r(N)
駆動側歯車Aにより、点Pには
T/r(N)の荷重が掛かります。
STEP2
従動側歯車Bが受ける回転力
では次に 従動側歯車Bが受けるトルクを計算してみましょう。
点Pに掛かる力はT/r(N)ですね。
すると この力により歯車Bは回転を始めます。
その回転トルクはT’(N)は次式となります。
従動側歯車B部に発生する回転トルクT’(N・m)
=点Pに掛かる力T/r(N) × 歯車Bの作用半径2r
=2T(N・m)
つまり、
作用半径が2倍になるとトルクが
2倍になります。
③減速する理由
駆動側歯車Aが一回転するとします。
駆動側歯車Aの作用半径の円周は以下の図の黄色となりますよね。
駆動側歯車Aの円周長さLA(mm)=2πr(mm)となります。
しかし、この円周長さを歯車Bに当てはめると
以下の黄色の範囲となります。
なぜなら 従動側歯車Bが1周させるためには
従動側歯車Bの円周長さLB(mm)=4πr(mm)であることから
駆動側歯車Aが歯車Bを回転させる回転量としては
従動側歯車Bを半周しかまわせていないことになります。
つまり、今回の場合
回転速度が1/2となっていることが
わかります。
④つまり・・・
減速すれば
- 減速比分 トルクがUP
- 減速比分 回転数がDOWN
ということは、減速する前と減速する後では
仕事率(動力)は等しく
変化はしていないということになります。
減速機をつける前
仕事率P<kw>={T<N>× 回転数N<rad/sec>}/1000
=(T・N)/1000<kw>
減速比2の減速機構をつけた後
仕事率P<kw>={2T<N> × (1/2) ・回転数N<rad/sec>}/1000
=(T・N)/1000<kw>
⑤減速の例
概要
自動車がそうですよね。
自動車の場合、減速機ではなく変速機ですが
減速によるトルクアップを、うまく利用しています。
自動車は
発進時にはギア比の大きい低速ギア
高速運転時にはギア比の小さい高速ギア
を使い分けています。
自動車の停止状態
から発進の場合
停止状態から動く時には
摩擦力+加速力という大きな力が必要になります。
従って、
エンジンからの高回転数に対して、かなり大きな減速比のギアを用い
大幅に減速させる代わりに、大きなトルクを得ます。
その代わり、低速ギアでは速度が出ませんよね?
低速ギアで速度を出そうとすると、
かなりの高回転が必要になることにより、以下の弊害があります。
- エンジン高回転による燃費の悪化
- エンジン高回転による騒音
- エンジン高回転によるエンジンへの負荷
- エンジンブレーキも大きくなるため速度維持が大変
自動車の
高速運転の場合
ある程度の速度が出ているので、加速が必要なくなります。
加速が必要なくなるということは
加速力が必要なくなるということです。
本来であれば慣性により、走行するのですが
路面との摩擦力による路面の抵抗力のみになります。
摩擦力は重力より弱い抵抗力なので
それほどトルクが必要なくなるのです。
まとめると
高速走行時には、弱い摩擦力に抵抗できる力のみ
となります。
従って、トルクが出なくなるが、
エンジンの回転に対してダイレクトに回転を伝える
ギア比の小さいギアにしていくのです。
これにより、エンジンが低回転で高速運転が可能となり
上記の運用によって、以下のメリットがあります。
- エンジン低回転による高速走行なので低燃費
- エンジン低回転による騒音の低減化
- エンジンブレーキが小さくなることによる速度維持操作性
⑥減速機の注意点
減速機はモーターのトルクの安全率を、
高めるためのものではありません。
不要な減速機の装着は、
合計慣性モーメントの増加につながります。
合成慣性モーメントの増加は、加速トルクの影響は小さいのですが
モーターに推奨される許容慣性モーメントに影響してきます。
モーターのスペック表に記載される
『モーターのローター慣性の○○倍以下』と記載されている数値です。
これをオーバーすると、ビタ止まりしたい場合に
できない場合があります。
(減速時間を長く設定できる場合は別)
減速機は必要性のある場合
例えば、以下のような状況下等において
- 既存モーターでは、どのモーターにおいても
トルクが足りない場合
- 周囲の機構によりトルクの大きい太いモーターの
設置が難しい場合
計算による適正な選定のもとに、つけるようにしましょう。
⑦プーリーの場合
概要
補足としてプーリーの場合も解説します。
基本的には歯車の場合と同じで
点Pに掛かる力に関して以下の違いのみです。
- 歯車の場合は直接伝えているか?
- プーリーの場合はベルトで伝達しているか?
当然 減速するのも同じです。
解説を簡単にするために
減速比を1/2にする機構で解説します。
プーリーA | モーターの駆動軸側 | 作用半径r<m> |
---|---|---|
プーリーB | 従動側軸 | 作用半径2r<m> |
モーターの トルク |
STEP1 駆動側プーリーAが
ベルトの点Pに及ぼす力
点Pに掛かるモーター駆動側プーリーAからの力F(N)
=モータートルクT(N・m) ÷ 歯車A作用半径r(m)
=T/r(N)
駆動側プーリーAにより、点Pには
T/r(N)の荷重が掛かります。
その荷重(=力)がベルトによって
伝達されます。
STEP2 従動側プーリーBの点P”が
ベルトから受ける回転力
では次に 従動側プーリーBが受けるトルクを計算してみましょう。
ベルトはT/r(N)が伝達されます。
従って、点P”に掛かる力もT/r(N)ですね。
すると
この力により従動側プーリーBは回転を始めます。
その回転トルクはT’(N)は次式となります。
従動側プーリーB部に発生する回転トルクT’(N・m)
=点Pに掛かる力T/r(N) × 歯車Bの作用半径2r
=2T(N・m)
つまり、
作用半径が2倍になるとトルクが
2倍になります。
⑧まとめ
モーターの駆動機構において
- 減速機構によって減速をすれば 減速比の分トルクが上昇する
- しかし、減速比の分回転速度が落ちる
- 減速機はモーターのトルクの安全率を高めるものではない
- 不必要な減速機設置は、モーターの許容慣性モーメントを
オーバーする必要がある。
本記事は以上です。
最後までお読みいただきありがとうございます。