tsurfの機械設計研究室

サーボモーターやエアシリンダの選定計算なども扱っている技術ブログです

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【補足】工数が正常に機能する世界は確かに存在する。

本ブログの御訪問ありがとうございます。
機械設計歴20年以上のT.surfと言います。

 

今回は以下に関する記事です。

【補足】工数が正常に機能する
世界は確かに存在する。

 

機械設計に関わらず
クリテイティブな業界で以下の方におススメです。

悩む設計者

「工数を守れ」と言われるたびに、
どこか納得できない。
設計者の勉強や工夫が“無駄な工数”
として扱われている気がする。

そんな違和感を抱いたことがある方へ。  
本記事では、設計工数という概念の“思考停止ポイント”を、
構造から順を追って解き明かします。

 

 

①工数の本質については以下の記事を―

本ブログは
設計工数という概念は間違った使われ方をしている
というスタンスです。

  • 設計者の作業時間に工数縛りを加え
  • 会社の技術力を低下させていく

まさに管理として稚拙でしかありません。
以下の記事を御参照ください

 

 

ただし、本記事では工数と言う考えが正常に機能して
成り立つ世界があることを解説し、

その特定業界以外はまったくの的外れ管理だということを
説明していきます。

 

まずは工数のルーツを知ることから始めましょう。

 

 

②工数のルーツ:フォード生産方式と“時間×人”の管理

工数のルーツは1913年、ヘンリー・フォードが
ベルトコンベア式のライン生産方式を導入
したことが、その発祥だと言われています。

  • 作業を細分化し、
    非熟練工でも一定の作業を反復できるように標準化
  • 各工程にかかる作業時間を秒単位で分析し、
    人件費を“時間×人数”で管理

このときの「作業時間の積算」が、
のちの“工数”という考え方の原型になったとされます


その原型とはー
工数=“時間×人数”という管理単位

  • 「1人が1時間作業する」
    =1工数(1MH:Man-Hour)
  • これを積み上げて、
    製品1個あたりに必要な“人の時間”を定量化

つまり、
工数とは、人件費を数量化するための単位
として生まれたわけです。

このフォードの考えは、
自動車の量産ラインという特殊な条件においては、
まったく正しく、むしろ理想的に機能していました。

 

 

③フォード生産方式で工数が成り立つ背景

工数が成り立つ条件とは?

工数という制度が、本来は“正しく機能していた”世界。
それが、ヘンリー・フォードが確立した
「量産ベルトライン」であることは、前章でも触れた通りです。

では、なぜそこでは工数が“成立”したのか?
構造をもう少し丁寧に整理してみましょう。

1910年代、
ヘンリー・フォードのベルトコンベア方式には以下の条件
が揃っていました。

  • 同一製品を大量に作る(月産◯千台という安定性
  • 工程ごとの作業内容が完全に固定されている(定型作業化)
  • 従業員は非正規も多く、時給という賃金体系(時給構造)
  • どの作業に何分かかるかを秒単位で測定(標準工数の形成)

上記条件はベルトコンベア量産ライン特有なものです。

 

なぜ工数制度が正しく機能したのか?

先で示したベルトコンベア量産ラインの条件下では、
以下のような流れが自然に成立していました。

  1. 月産台数が明確に定まっている
  2. それに応じて必要な作業量が積算される
  3. 作業の標準化から工程毎の所要時間が見積もられる
  4. そこに時給を掛けて人件費が製品コストに上乗せされる

─つまり、時間×人数×数量=人件費という、
という、非常にシンプルで再現性のある原価計算ロジック
確立していたのです。

 

限定された機能する世界

この構造があったからこそ、
工数という制度は正しく機能していました。
逆に言えば──

工数という概念が成立しうるのは、
ベルトコンベア式のライン生産方式という特定の
分野に限られる

それ以外の業種・業態へ
“そのまま移植”してもうまくいくはずがありません。

 

 

④現代の工数の構造-逆転した”数値神話”

前章では、工数という制度がどのように成り立ち、
どれほど条件の整った世界でしか機能しなかったかを
おさらいしました。

また、「安定した月産台数」と「定型作業」の存在が前提としてあり、
その上で“後から”工数が導出された構造も確認しましたね。

 

では、現代ではどうなっているのでしょうか?

ベルトコンベア式の生産方式とはまったく異なる業界──

たとえば、個別対応が基本となる設計や開発の現場にまで、
工数という制度が“そのまま”輸入されてしまいました。

そして起きたのか『計算過程の逆転』です。

本来は「必要な作業量」や「安定した数量」から
後から算出されていたはずの時間単価や作業時間が、
なぜか現代では、

  • 根拠の曖昧な時間単価
  • 未来予測でしかない作業時間

が先に設定され、その上で現場に

管理職

この工数内で終わらせるように

と指示される世界に変貌してしまったのです。

 

まるで──

設計作業とは、あらかじめ完成時間が決まっていて、
それに向けて“適切に終わらせるべき”ミッション
であるかのような扱いになっています。

ですが、それは、工数という制度の本来の構造と、
真っ向から反しています。

 

 

⑤工数が今でも正常に機能する場面とは?

経営者

工数を正しく活用したい

もしそのように考える希少な経営者がいるのか不明ですが
それを成立させるには“稀少な前提”が必要です。

ここまで、工数という制度がいかにフォード式の世界に
特化したものであり、

現代では構造的にズレたまま運用されているかを見てきました。
では、そのうえで──

経営者

それでも工数を役立てる道はないのか?
全ての工数が悪なのか?

と問われれば、答えはNOです。
実際には、今でも工数が道具”としては意味を持つ場面
も存在します。

当然ベルトコンベア式のライン生産方式的な業務では
引き続き成り立つことに変わりはありません。

ですが、それ以外の分野では
工数はお客に作業費を請求する根拠の見える化
に過ぎず、それ以上でもそれ以下でもありません。

ですが、
工数を評価ツールではなく“観察ツール”として使う方法なら
まだ使い道があります。

  • ある部署で「毎日、非設計業務に1〜2時間かけている」
  • ある作業が「毎回“調整”と称して2〜3倍の時間を食っている」
  • 打ち合わせや帳票作成に「合計で月50時間以上費やされている」

……こういった設計者がやるべきでない仕事が、
工数から浮かび上がることがある。

このとき工数は、
個人を責める数値ではなく、業務構造の欠損を示す反射鏡
になります。

ただし、これを行うにはかなり高度なスキルが必要になります。
そのスキルとはいかなるものか次章で解説します。

 

 

⑥工数を有効に使うためには高度なスキルが必要

工数有効活用のためのスキル

工数が有効なツールとして機能するために
職場的なスキル、データー解析能力を有する個人スキルなどが
必要で以下となります。

数字を
読む人
工数記録から意味ある傾向を抽出できる
解析スキルを持った人材。
Excel職人ではなく、業務構造に精通した分析者。
問題を
話せる場
なぜ時間が延びたか、現場との対話と検証ができる
時間的・精神的余白。つまり“なぜ?”を語れる空気。
観察目的
の設定
工数を“叱責の材料”ではなく、
あくまで業務設計の改善材料として活用する
評価軸の切り替え。
教育機能 上記スキルを持つ人材を“育てる時間と環境”を持つ会社。
実務に埋没せず“考える人”を育てられる文化。

 

しかし──
こういった条件が揃っている中小企業は、
正直、ほぼ存在しないのが現実です。

なぜなら期待されたいない能力だから

なぜ工数が有効活用されないのか
それは以下の要因による期待されない能力
だからです。

  • データ解析能力→ 期待されていない
  • 業務構造の再設計スキル→ 予算も評価もされない
  • 対話のための時間→ 最も削られやすい“無形コスト”

要するに、
工数が正しく使われるために必要なスキルこそが、
もっとも“求められていない力になっている
という皮肉ですね。

 

だから、こう整理するのがいい

工数は、思想を持って“道具”として使えば、
機能することもあります。

ただし、それを使いこなすには

  • 読む人
  • 考える場
  • 制度への信頼

が必要になります。

そしてその運用責任は、設計者側ではないんです。
工数を使うと決める人間たち、
つまり“管理する側”にあります。

 

 

⑦まとめ 制度は使い方よりも見方が問われる

工数という制度は、
本来“安定した生産構造”と“定型作業”に支えられて
機能してきた仕組みです。

 

それを──
構造の異なる業界に、そのまま“評価制度”として輸入した結果、
数字が意味を失い、現場を苦しめるだけの存在になりました。

 

制度が悪いわけではありません。
けれど、制度の“使い方”ではなく、
「何を見るための制度だったのか?」という
“見方”と“運用思想”が抜け落ちてしまっています。

工数に意味を与えるのは、運用する人の思想である。
そうでなければ、それはただの数字でしかありません。

 

本記事は以上です。
最後までお読みいだだきありがとうございます。

 

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